コラム
障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化
~障がい福祉事業のM&Aに与える影響とは~
令和6年6月21日規制改革実施計画において、
事業者が合併、事業譲渡等を行う場合に必要な手続きの簡素化を行う通知がでました。
今回は、障害福祉サービス事業者の吸収合併等に伴う事務の簡素化への取り組みとそれぞれ行う対策を中心にお伝えします。
吸収合併等における改定内容とは
吸収合併に伴う指定申請の取り扱いは、法人Aが法人Bに吸収合併され、
その結果として法人Bが法人Aの事業所を引き継ぐ場合、
法人Bは新たに事業所の指定申請を行わなければなりません。
指定権者が、施設や事業所の職員に変更がないなど吸収合併前後で事業所が実質的に継続して運営されていると判断される必要があります。
これが改定内容を適用するための前提条件です。
改定内容① 吸収合併等に伴う指定申請の取扱い
事業所が指定を受けようとする際に提出すべき書類は、吸収合併等前の旧法人が事業所の指定を受けた際に提出していた内容から変更があった部分についてのみ届け出ることで足りるとされました。
例えば、法人格以外に変更がない場合は、事業所を運営する法人の法人格が変更したことがわかる登記事項証明書等を提出するのみで差し支えない、というものです。
例として、居宅介護の場合の指定申請の際に指定権者に届け出ることとされている内容の比較を示します。
【居宅介護の場合】
事業所と利用者が行う契約関係の取扱い
会社法に基づいた上で、旧法人の事業を継続する場合は、障がい福祉サービス事業所等の利用契約の再締結は不要とされています。また、サービス等利用計画の変更は不要とされています。
ただし法人等が変更となる利用者への説明や利用料金の支払い費用の変更案内が必要なため、
法人変更等の説明と引き続き継続利用していただくための確認のため、契約書の再締結を念のため進めておく方が安心と考えられます。
なお、吸収合併等が行われることにより、利用者へサービスが継続的に提供されるよう、
可能な限り迅速・簡便な対応を行う配慮も必要です。
改定内容② 障がい福祉サービス等報酬上の取扱い
障がい福祉サービス等報酬上の取扱いに関し、施設・事業所の職員に変更がない等、吸収合併等の前後で事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合は、障がい福祉サービス等報酬上の実績を通算されます。
例えば下記のような実績を通算されると例があげられています。
-
就労移行支援の基本報酬における就職後6ヶ月以上定着率について、
吸収合併等前の旧法人が運営していた事業所の実績を通算する。 - 福祉専門職員配置等加算における職員の勤続年数を通算する。
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居宅介護の特定事業所加算における重度障害者の受入割合など、
過去の実績に基づく加算については、実績を通算する。 -
定員超過利用減算における過去3ヶ月の平均利用人員など、
過去の実績に基づく減算については、実績を通算する。 -
福祉・介護職員等処遇改善加算における福祉・介護職員等処遇改善計画書や福祉・
介護職員等職員処遇改善実績報告書について、吸収合併等前の旧法人が 運営する
事業所分と吸収合併等後の法人が運営する事業所分を一括して作成・提出する。
障がい福祉事業のM&Aに与える影響とは
今回の通知で障がい福祉事業のM&Aに、影響が及ぶ可能性があると考えています。
特に大きな影響を与える点は、障がい福祉サービス等報酬上の取扱いに関し、
施設・事業所の職員に変更がない等、吸収合併等の前後で事業所が実質的に継続して運営されると認める場合は、障がい福祉サービス等報酬上の実績を通算することです。
報酬上の実績が通算されるため、事業を引き継いだ後に、実績の通算がリセットされることなく、報酬維持できる可能性があります。
しかし注意点もあると考えられます。
施設・事業所の職員に変更がない等、吸収合併等の前後で事業所が実質的に継続して運営されると認める場合と記載されていますが、まったく施設の設備を変更してはいけないのか、
職員の変更はどこまで変更してはいけないのか具体的には分かりません。
労働条件等も引き継いだ場合には労務リスクもあると考えられます。
また旧法人で取得していた加算を継続することにも注意が必要です。
旧法人での報酬上の実績が通算される場合、旧法人で加算取得が適正であったかということも確認が必要です。
仮に本来加算を取得できないにも関わらず取得をしていたことがわかった後、
実績を通算することは適正か判断が難しいところです。
今回の通知で、引き継いだ後の法人は報酬維持ができる可能性も高くなるため、
引継ぎ後も想定される報酬を算定できる可能性が高くなりメリットがあると考えます。
ただし施設・事業所の職員に変更がない等、吸収合併等の前後で事業所が実質的に
継続して運営されると認める場合の具体的な内容が示されていません。
M&Aを考える際、この通知文の内容がどこまで適用できるかは、そのM&Aの案件によって変わってくるため、都度、行政へ確認しながら進めることが必要になってくるでしょう。
参照:事 務 連 絡 令和6年6月 21 日
障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001267463.pdf