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障がい福祉サービスのM&A 売り手が事業を高く売るための主なポイント・買い手がM&Aを行う主な理由

2024.10.20
障がい福祉サービスのM&A 売り手が事業を高く売るための主なポイント・買い手がM&Aを行う主な理由

近年、障がい福祉分野においてM&Aが増加しています。その背景の一つとして後継者不足が影響しています。このため、後継者がいない事業所がM&Aを選択するケースが増えてきており、業界の変化が見られます。
今回は売り手が事業を高く売るための主なポイント、買い手がM&Aを行う主な理由についてお伝えします。

売り手が事業を高く売るための主なポイント

売り手は自社の企業価値を高めるとより良い評価(買収価格)を得ることができる可能性が高まります。買い手に魅力的に映るようにするためには主に下記のポイントがあります。

1. 収益性の向上を図る

事業所の人員、利用者状況から、適切な営業戦略を策定し、利用者獲得の活動や適切に加算取得を進めることが効果的です。
具体的には、既存の営業先(相談支援事業所など)に向かうこと、新規の営業先に向かうなど、周辺の事業所との連携を進め、利用者獲得ができるように営業活動を行っておくことが重要です。事前に営業活動を進めておくことで、M&A後も営業先を引継ぎやすくなり、買い手にとって魅力的にみられます。
また営業活動により利用者獲得ができていると、収入があがるため企業価値が高くなりやすいです。

2. 業務の最適化を図る

事業所の業務効率化の取り組み(記録方法、請求方法、勤怠方法など)を行い、コスト削減を実施することが効果的です。
障がい福祉サービスの大きな費用は人件費です。人員基準上必要な人件費を削減することは難しい場合があります。その場合は、業務効率化を図ることで職員の負担を減らし、残業時間削減などを進めておくことも効果的です。 また令和7年からの処遇改善加算の要件に、生産性向上に関する取組が条件になってくるため、業務効率化を行っているかは重要なポイントです。
今後の障がい福祉サービス事業は、人材不足のため、業務効率化が進んでいる法人は価値が高くなると考えられます。

3. 財務管理を強化する

財務状態を健全化し、財務リスクを最小限に抑えた経営を進めることが効果的です。
例えば、最新の会計状況を提出できる体制を整える。部門会計を行っており、部門ごとに収支がわかる状況になっている。処遇改善加算の配分方法が明確で法人の持ち出しが少なくなるような方法を行っている。などを進めることで企業価値が高くなると考えられます。

4. 適切な運営をしている

事業所は適切な運営を行い、運営指導(実地指導)で指摘されにくい運営をすることが効果的です。
具体的には運営指導で指摘されにくいように、改めて運営基準などの見直しがおすすめです。
例えば、令和6年度からBCP、衛生管理等いくつか義務化された内容の対応をしていることは重要です。
特に加算関係は適切な算定要件を把握した上で、取得しているか確認が必要です。仮に加算を取得しているものが加算要を満たしていない状況の場合には、早急に見直す必要があります。M&Aのタイミングでその状況がわかり、買い手から指摘される場合には、M&Aが進まなくなる可能性が高くなります。加算要件などを見直し、適切な運営ができているか確認することが望ましいです。

買い手がM&Aを行う主な理由

買い手は主に以下を理由にM&Aを進めます。買い手はM&Aを成功させ、自社の企業価値を高めようと考えています。

1. シナジー効果を得る

M&Aによって創出される既存事業所とのシナジー効果を最大化したいと考えます。具体的なシナジー効果は、重複する部署や機能の削減、人材の共有、営業先の共有および収益の増加です。
障がい福祉サービス業界では人材不足が深刻な問題となっているため、M&Aによって即戦力となる人材を獲得することは大きな利点となります。
また施設・設備の効率的活用を行い、初期投資を抑えつつ迅速にサービス提供を開始することや新しいサービスを開始することが可能になります。

2. 既存事業の費用削減と効率化を図る

既存事業の改善のため、M&Aに伴って重複する業務や機能を削減し、効率化することで、コストの削減等ができる可能性があると考えています。
特に間接部門(本社機能)は、統合することで適正化される可能性があります。
また事業所運営においては、売り手の運営方法を参考にすることで、既存事業にも活かす効率化(記録方法、研修方法、業務フローなど)ができる可能性もあります。

3. ブランディングとマーケティング戦略

M&Aの情報を営業先に明確に伝えていきたいと考えています。M&Aを行うことで、今までサービス提供できなかった新サービスを法人内で提供できることやサービスエリアが拡大するため、地域にとって必要な企業になることで地域におけるブランディングが進みます。
また競合が多い場所に参入するためにも新規で事業所を出店するよりリスクが低くなるためマーケティングとしても効果的です。

買い手が売り手の情報収集のために参考にできる情報(障害福祉サービス等情報公表制度)

障害福祉サービス等情報公表制度とは、平成30年4月に導入された仕組みで、障害福祉サービスの内容等を都道府県知事等に報告が必要となりました。更に令和6年4月から情報公表制度で公表を行っていない事業所は減算となる対応がされています。
この情報公表制度では、法人の基本情報(住所、代表者など)、事業所の運営状況(管理者名、従業員情報、取得している加算、運営体制など)の情報の掲載がされています。中でも事業所毎の財務状況の掲載も必要になっているためM&Aの検討を進める上で、売り手情報がわかったときには、情報公表制度の情報も参考にできます。
情報公表制度の項目に“なし”があまりにも多い場合には、正確な情報が記載されていない場合があります。その場合には、今までの運営では、運営基準のルールをあまり意識していない事業所と捉えることもできます。
M&Aをする際に売り手から入手できる情報と情報公表制度を比較することもM&Aを進めるかどうか検討する上では有用な情報になります。

厚生労働省 障害福祉サービス等情報公表制度

参照:厚生労働省 障害福祉サービス等情報公表制度

これまでM&Aで企業価値を高めるポイントをお伝えしてきました。
M&Aを進める上で売り手買い手の考えがあり、双方の考えが一致せずM&Aが成功しない場合もあります。また契約書の締結などある程度進んでいたとしても、何かの理由で急にお断りされる場合もあります。
売り手は企業価値を高めることでM&Aが進む可能性が高くなるため、今からでも企業価値を高めるための適切な運営と収入を可能な限り上げることを進めることが重要です。

ライター紹介
石川敦士氏
石川 敦士氏
日本クレアス税理士法人 大阪本部日本クレアス税理士法人 大阪本部
HP:https://j-creas.com/