障がい福祉サービス事業のM&Aで売り手が注意するポイント
2024.12.26
障がい福祉サービス事業におけるM&Aの特徴
最近、M&Aを行うことで、法人規模の拡大、人材確保、利用者確保などシナジー効果を求めてM&Aを成立する場合もでてきています。
ただし障がい福祉サービス事業のM&Aは、法規制や利用者への影響が大きいため、慎重な計画と専門家の活用を行い実行することが望ましいです。
そこで、今回は障がい福祉サービス事業のM&Aにおいて、売り手が注意するポイントをお伝えします。
売り手が注意すべきポイント
障がい福祉サービス事業の売却を検討する際、売り手側が注意すべきポイントはいくつかあります。これらを考慮することで、適切な買い手を選定し、事業や利用者、職員への影響を最小限に抑えたスムーズな売却がしやすくなります。
1. 運営指導の目的と種類とは?
- できる限り不安を与えないように、適切なタイミングで情報を共有し、不安を軽減する工夫が必要です。例えば買い手候補が決まった段階(契約締結直後)で利用者や利用者家族向けの説明会を開催し、説明すること。
- 提供するサービスが同様である場合には、M&A後も同様のサービス提供を継続してくれる可能性が高いため、サービスに対する理念が買い手と近しいこと。
2. 職員の処遇と働きやすさの確保
- できる限り職員に不安を与えないように、適切なタイミングで情報を共有すること。例えば買い手候補が決まった段階(契約締結直後)で職員向けの説明会を行うことが望ましいです。
- 雇用条件や待遇が可能な限り維持されるように最終契約を行うこと。
- 職員毎に契約内容が異なる場合もあるため、個々に面談を設定すること。
3. 事業価値の把握
- 専門家に依頼し、適切な事業評価を行い、売り手の強みを明確にすること。例えば、収益性、事業所・施設の状態、地域での競争優位性などを明確にお伝えできるようにすることが重要です。
4. 許認可や行政手続きの対応
- 売却後の許認可や行政手続きが必要となる事業のため、事前にスケジュール感などを確認しておくこと。
またM&Aの種類により対応方法が異なるため、専門家に相談することをおすすめです。 - 売却すると決まった後、行政へ相談した後に、運営指導(実地指導)が入る可能性があること。
5. 買い手の選定
- 買い手が障がい福祉サービスの運営経験や社会的意義を理解しているかを確認すること。
- 適切な買い手が見つからない場合は、条件面の見直しやM&A仲介会社の利用すること。
6. 法務・税務リスクの確認
- 退職金や譲渡益課税、借入金がある場合、補助金などの財務リスクがある可能性があるため、顧問税理士への相談をすること。
- 職員トラブルの引継ぎ、テナントの場合はオーナーとの交渉が発生することなど、労務関係、契約関係の問題が発生することもあるため、社労士、弁護士等への専門家に相談すること。
7. 情報管理
- M&A実行するまでの情報漏洩を防ぐため、秘密保持契約(NDA)の締結を各関係者と行うこと。
8. 事業引き継ぎの準備
- 業務プロセスや利用者記録、営業ルートなどを整備し、スムーズな引き継ぎを行うこと。
特に留意する職員への伝達タイミング
M&Aのプロセスにおいて、職員への伝達タイミングは非常に重要です。早すぎると不安や憶測が広がる可能性があり、遅すぎると信頼を損なうリスクがあります。以下を参考に最適なタイミングを判断する必要があります。
【伝達タイミングの基本的な考え方】
- 原則として確定情報がある段階で伝える
- 具体的なM&A契約がほぼ合意に達し、実行が確定的になった段階で伝えるのが一般的です。
-
「検討段階」や「交渉中」の段階で伝えると、不確定要素が多いため職員に不安を与えやすいです。
例えば基本合意後~最終契約前にお伝えすることがあげられます。 - 行政手続きのタイミングと連動させる
- 障がい福祉サービス事業では、許認可や行政手続きがM&Aに伴う重要な要素となります。これに合わせて、職員への伝達タイミングを調整することも検討することが必要です。
- 例えば遅くてもM&Aの3~4か月前にはお伝えしておくことが望ましいです。
- 可能な限り突然の発表を避ける
- 突然の発表は職員に動揺を与えます。計画的に準備し、説明資料やQ&Aを用意することが望ましいです。
- 例えば最終契約締結直後にお伝えすることがあげられます。
問題となりやすい退職金・有給休暇の取り扱い
- 退職金の支払い義務
- M&Aにおける退職金の支払い義務は、具体的な状況や契約内容によって異なります。退職金の支払い義務が法律で直接規定されているわけではありません。 ただし、就業規則や労働契約、または労働協約で退職金の支払いが規定されている場合、法的拘束力を持つことがあります。 M&Aの際、新しい会社がこれらの規定を引き継ぐかどうかが問題となります。
- 退職金の支払い義務
- M&Aにおいて、有給休暇の承継はM&Aの形式によって異なります。 有給休暇は職員にとって重要な権利の一つであり、適切に処理する必要があります。 そのため残日数を引継ぐのか、付与日数を引き継ぐのか、付与タイミングを引き継ぐのかなどを検討することが必要です。
まとめ
障がい福祉サービス事業のM&Aは、法規制や地域性、職員の処遇など、特有の課題が多いため、計画的かつ慎重に進めることが重要です。
専門家の助言を受けながら、利用者・職員・行政とも密に連携しつつ、スムーズな引き継ぎを目指す必要があります。
ライター紹介
石川 敦士氏
日本クレアス税理士法人 大阪本部
HP:https://j-creas.com/
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