障がい福祉サービス業界における新制度(経営情報の見える化)とM&Aの関連性?

障がい福祉サービスの需要が増加する中で、利用者が適切なサービスを選択しやすくするために、障害福祉サービス等情報公表制度が平成30年に施行されました。
その中で、事業者の財務状況の公開も制度において求められておりますが、実際に公開しているのは全事業所の内、約4割にとどまり、経営の透明性向上が課題となっています。
そこで、令和6年度の報酬改定では、財務状況を公開する制度の情報公表未報告減算が新設され、財務状況の公開も推進されるように進められています。
\令和6年度障害福祉サービス等報酬改定情報はこちらの記事を確認/
令和6年障害福祉サービス等報酬改定情報(全サービス主な共通改定項目)
さらに今後、厚生労働省は経営の透明性を確保するため、財務状況のデータベースを整備することで、費用の使途の透明性向上(比較・分析できる仕組み)をはかる「障がいサービス等事業者の経営情報の見える化」の推進が、社会保障審議会障害者部会(第145回)・ こども家庭審議会障害児支援部会(第10回)で議題にあげられました。 今回はその目的、内容、業界への影響、そしてM&A(合併・買収)との関連についてお伝えします。
1. 経営情報の見える化の目的
「障がいサービス等事業者の経営情報の見える化」の目的は、利用者が信頼できる事業者を選択できるようにすることです。
また、事業者間で経営実態を公開し、適切な政策の検討や支援策の策定を促進します。これにより、物価上昇や災害、新興感染症などのリスクに対する支援が効果的に行えるようになります。
同様の制度として、既に介護分野でも令和6年4月から「経営情報の見える化」が進められています。
※介護サービス事業者経営情報データベースシステム
2. 経営情報の見える化の具体的な内容
障がい福祉サービスの経営情報は、現行の情報公表システムを活用し、令和7年度から報告が行われる予定です。報告対象はすべての事業者で、内容には事業所の基本情報、収益や費用、人員情報などが含まれます。報告された情報はグルーピングして分析され、その結果が公表される予定です。
具体的には、毎会計年度終了後3ヶ月以内に報告が求められます(初回は令和7年度内)。情報は都道府県の情報公表システムを通じて提出します。
3. 経営情報の見える化がもたらす影響
(1) 利用者への影響
利用者は、財務基盤が安定している事業者を選ぶことができ、長期間にわたって安心してサービスを受けられるようになります。
(2) 事業者への影響
事業者は、財務情報が透明化されることで、他の事業者との競争が激化します。また、適切なサービスが提供されている事業者として信頼を得ることができ、さらなる成長が期待されます。
(3) 行政指導への影響
行政は事業者の運営状況の把握のため、経営情報の見える化を活用し、不適切な運営をしているか確認される可能性があります。
4. M&Aとの関連性
経営情報の見える化が進むことで、障がい福祉サービス業界でのM&Aが活発化する可能性があります。新規に事業を開設するよりも、M&Aの費用が小さく、ノウハウを共有することで効率的に事業展開ができることやサービスの質向上が期待されます。
以下に経営情報の活用により、想定される影響を示します。
(1) 買い手側は適切な事業者の選択が進む
経営情報が見える化され、データベース化されることで、買い手側は安定した経営を行っている事業者を選定しやすくなります。投資家や新規参入企業にとっても、優良なM&A先を見つけるために経営情報を活用されることが想定されます。特に大手法人による中小事業者の買収が今後活発化する可能性があります。
(2) 売り手側はより適切な運営が求められる
経営情報が整備されることで、経営と運営の状況が透明化されるため、運営が不適切な状況や経営が不安定な事業者はM&Aの対象として、厳しい目線を受ける可能性があります。
少なくても適切な運営を進めていくことが重要です。
5. まとめ
経営情報の見える化は、透明性の向上により、業界全体の競争が健全化し、サービスの質が向上することで、利用者、事業者にとってメリットをもたらすことがあります。
事業者は今後、透明性向上と持続可能な経営に向けた取り組みを強化し、見える化の動向に注視する必要があります。
参照:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 こども家庭庁 支援局 障害児支援 社会保障審議会障害者部会(第145回)・ こども家庭審議会障害児支援部会(第10回)
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001389437.pdf
