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【人材構成と潜在コストの把握がカギ】障がい福祉サービスM&Aにおける外国人雇用・単発スタッフの実態と確認ポイント

2025.05.30
【人材構成と潜在コストの把握がカギ】障がい福祉サービスM&Aにおける外国人雇用・単発スタッフの実態と確認ポイント

障がい福祉サービス業界では、慢性的な人手不足が続いており、多くの事業者がその解決策として、外国人スタッフの活用や単発スタッフ(スポットワーカー)の導入を進めています。こうした雇用形態の多様化は、一見すると柔軟で効率的な経営に見えるかもしれませんが、M&Aの場面では慎重な確認が求められます。
M&Aでは、財務諸表や契約内容の確認にとどまらず、「誰が、どのような形で働いているのか」といった人的資源の実態を正確に把握することが重要です。特に外国人雇用や単発人材の活用状況は、譲受後の運営に大きな影響を及ぼす可能性があるため、事前の丁寧な確認が欠かせません。
本記事では、M&Aの成功に直結する「人材構成」と「見えにくいコスト」の観点から、外国人スタッフや単発スタッフに関する実務上の確認ポイントを解説します。

1. M&Aで見逃しがちな人材の質と構造

一般的にM&A交渉時には、職員の資格、常勤・非常勤比率、年齢構成などの基本情報が開示されますが、それだけの確認では不十分になっています。
以下のような“人的資源に関する実態”を掘り下げて確認することで、将来的な人件費負担や運営リスクを把握できます。

【主な確認事項】
• 外国人スタッフの在籍状況と在留資格(技能実習・特定技能・EPA等)
• 職員の雇用形態(正社員・パート・派遣・アルバイト・単発など)
• 資格保持者数と種別(介護福祉士、社会福祉士など)
• 資格取得支援制度の有無(費用補助・時間的配慮)
• 単発スタッフの利用頻度、費用、今後の採用戦略
人材にかかるコストは給与だけではありません。
教育、支援、各種更新手続き、語学研修といった“見えない費用”が発生している可能性があり、将来的な収益に影響するため、早期の把握が重要です。

2. 外国人雇用の拡大と実務上のチェックポイント

● 外国人材の主な在留資格制度と特徴

制度名 介護福祉士の資格 勤務可能期間 受入調整機関等の支援 日本語能力
EPA(経済連携協定) 資格なし 資格取得後は、永続的な就労可能 あり N3程度
在留資格「介護」 介護福祉士 永続的な就労可能 なし N2程度
技能実習 資格なし 最長5年 あり N4程度
特定技能1号 資格なし 最長5年 あり ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力
介護の現場で働く上で必要な日本語能力

※上記は、厚生労働省の外国人介護職員の雇用に関する介護事業者向けガイドブックを参考に一部抜粋しています。
※詳細は厚生労働省:外国人介護人材の受入れについて をご参考ください。

これらの制度における外国人は、それぞれに雇用上のルールと支援体制の整備が必要です。特に令和7年4月以降、条件を満たせば訪問介護系のサービスにも従事可能となるなど、制度が拡充されてきています。

障害福祉サービスにおける対応

● 実際の運用に必要な支援内容

外国人スタッフの採用は、単に雇用するだけでなく、生活面や教育、法的支援など多岐にわたる対応が求められます。これに伴い、以下のようなコストが発生することを念頭に置いておく必要があります。

  1. 登録支援機関への委託費用(月2~4万円/人程度)
  2. 住宅確保にかかる費用(敷金・保証人手配・家具家電の準備など)
  3. 通訳・翻訳サービスおよび日本語教育の実施
  4. ビザ更新や各種行政手続きの代行費用
  5. 国家資格取得のための講座費用や交通費、受講時の有給対応
※上記はあくまで参考例です。

🔍 ケース例
ある法人では、3名の外国人スタッフの人件費以外に、年間約200万円もの支援費用が発生していました。しかし、M&A後に譲受側がこれらのコストを十分に把握しておらず、結果として利益を圧迫する要因となった事例があります。

外国人材を受け入れることは、単なる労働力の確保にとどまらず、多文化対応や教育・指導体制の整備、さらに地域社会との調和といった複合的な経営課題と密接に関わっています。したがって、M&Aの場面でも制度の正確な理解と中長期的な戦略的視点が不可欠です。

3. 単発スタッフ(スポット人材)活用の現実

近年、単発マッチングサービスを利用して、数時間単位で人材を活用する事業者が増えています。特に「急な欠勤の補填」や「イベント支援」などの場面で効果的ですが、もし常時の人員確保に単発スタッフが依存している場合、M&Aにおいては以下の点を必ず確認しておく必要があります。

【単発スタッフの実態確認ポイント】

  1. 利用頻度(月何回、週何回程度か)
  2. 主な業務内容(送迎、事務、生活支援など具体的な役割)
  3. 時給以外に発生するマッチング手数料の有無(例:1回あたり30%前後)
  4. 常勤スタッフの補完としての単発スタッフ依存度
  5. 法的な雇用形態(業務委託か派遣か)
  6. 単発マッチングサービスを継続利用している理由

📌 注意点
単発スタッフはあくまで“補助的な人員”であり、サービスの安定性は高くありません。また、単発スタッフへの職員研修体制が整っているかどうかも重要な確認事項です。これを怠ると、運営指導の際に指摘を受ける可能性があります。
慢性的な人手不足を単発スタッフで補っている場合、M&A後に自社で人材を確保できなくなるリスクが高く、事業運営に大きな支障が出る恐れがあります。

このように単発スタッフの活用状況は、M&Aの際のリスク評価において重要なポイントとなります。必要に応じて更に詳細な分析や確認項目の追加も可能です。

4. M&A実務で必ず確認すべき質問例

デューデリジェンスや経営者ヒアリングの場面では、以下のような質問を活用すると、人的リスクの見極めが効果的に行えるでしょう。

  1. 現在在籍する外国人は何名か?それぞれの在留資格は?
  2. 登録支援機関は利用しているか?支援内容・費用はいくらか?
  3. 外国人雇用に関する手続き担当者は誰か?(管理体制の明確化)
  4. 資格保持者(介護福祉士等)の数と比率は?
  5. 現在資格取得を目指している職員は何名か?法人としての支援体制は?
  6. 単発スタッフの利用状況(頻度、用途、年間費用)は?
  7. 離職率や採用難易度、募集しても応募がない職種はあるか?

まとめ 人材構成の“見える化”がM&A成功の鍵

障がい福祉サービスのM&Aにおいては、表面的な業績や設備だけでなく、「どのような人材が、どのような形で働いているのか」や、「人件費以外に潜む人材コストは何か」にも目を向ける必要があります。
特に、外国人スタッフや単発スタッフの利用状況は譲受後の運営に大きく影響するため、事前にしっかりと確認し、評価しておくことが重要です。M&A後に「こんな人材構成だとは知らなかった」と後悔しないように、人材面のチェックは丁寧に行いましょう。

ライター紹介
石川敦士氏
石川 敦士氏
日本クレアス税理士法人 大阪本部日本クレアス税理士法人 大阪本部
HP:https://j-creas.com/