共同生活援助が総量規制の検討対象へ!今後の事業展開に向けた経営戦略
厚生労働省が社会保障審議会障害者部会第148回で公表した「障害福祉分野における地域差・指定の在り方について」に関する資料を基に障がい福祉事業の今後の方向性を整理します。
一部サービスにおいて都道府県別でみる利用者数割合が掲載されており地域差があるとされています。共同生活援助において総量規制の可能性が検討されています。今回は主に共同生活援助に関する内容を中心に記載します。
1. 障害福祉計画及び地域差に係る現状
障がい福祉サービスの利用実態には、各サービスで地域ごとに顕著な差が見られます。以下に、今回厚生労働省が取り上げたサービスの概要をまとめます。
■サービス別・利用者数割合の地域差
| サービス種別 | 利用者数割合が高い県 | 利用者数割合が低い県 |
| 生活介護 | 秋田県・青森県・島根県 | 東京都・埼玉県・千葉県 |
| 共同生活援助(グループホーム) | 北海道・長崎県・佐賀県 | 京都府・富山県・兵庫県 |
| 就労継続支援A型 | 熊本県・岐阜県・福井県 | 東京都・神奈川県・秋田県 |
| 就労継続支援B型 | 沖縄県・鳥取県・鹿児島県 | 千葉県・神奈川県・東京都 |
| 児童発達支援 | 鹿児島県・岡山県・奈良県 | 石川県・島根県・秋田県 |
| 放課後等デイサービス | 鹿児島県・沖縄県・熊本県 | 秋田県・東京都・岩手県 |
これらのデータは、単に人口規模の違いによって生じているのではなく、自治体の施策、地域の産業構造、家族形態など複数の要因が絡み合っていると考えられます。これらのデータを参考に、今後新たな事業を展開する場合の重要な判断材料となります。
※各サービスにおける都道府県毎の地域差は、「障害福祉分野における地域差・指定の在り方について」(3~15ページ)を参照ください。
参照:厚生労働省 障害福祉分野における地域差・指定の在り方について
地域の実情や報酬改定・制度改正の影響の有無を考慮して、市町村・都道府県は「障害福祉計画」および「障害児福祉計画」を、基本的に3年を一期として作成しています。現在は、第7期障害福祉計画・第3期障害児福祉計画(令和6年度~令和8年度)の期間中です。
これらの計画では、障がい福祉サービス・障がい児通所支援の提供体制や自立支援給付の円滑な実施を確保するという基本方針のもと、必要なサービス量(さらに必要なサービスがどこにあるのか)を設定します。その結果、都道府県などで地域差があれば、事業所数の是正など、計画的・効率的に整備を進めることになります。
また、地域のニーズを踏まえた事業者指定の仕組みとして、令和6年4月からは「市町村が都道府県の事業者指定について意見を申し出る制度」が始まりました。都道府県は、市町村の意見を勘案して指定の際に必要な条件を付し、条件に反した事業者に対しては勧告や指定取消しを行うことができます。これにより、都道府県の事業所指定に際して、市町村の意見が制度的に反映されるようになりました。

参照:厚生労働省 障害福祉分野における地域差・指定の在り方についてp82
■意見申し出制度について~意見申し出制度と総量規制の関係~
この仕組みが導入された背景には、総量規制の検討が順次進められていることがあります。
総量規制とは、「指定権限を有する一部の障がい福祉サービス等について、都道府県等の障害福祉計画・障害児福祉計画の達成に支障を生ずるおそれがあると認める場合(計画に定めるサービスの必要量に達している場合など)、事業所等の指定を行わないことができる」というものです。
現在のところ、サービスや都道府県によって対応は異なりますが、総量規制を実施している自治体は全体の1割程度とされています。その中でも、今後特に総量規制を検討すべきサービスとして最も注目されているのが「共同生活援助」です。

参照:厚生労働省 障害福祉分野における地域差・指定の在り方についてp68グラフ
2. 共同生活援助における総量規制の可能性
共同生活援助(障がい者グループホーム)は、特定地域で事業所数が急増しており、サービスの質の低下や地域バランスの崩れが懸念されています。このため、今後は市町村の障害福祉計画に基づき、一定数以上の新規指定を制限する仕組み(総量規制)が導入される可能性が出てきています。
総量規制を検討すべき理由(厚生労働省資料より抜粋)
- 他のサービスと比較して、特に事業所数の増加率が高い。
- 事業者の知識や理解が乏しい場合、あるいはサービス提供自体に疑義があるケースが多く、事業者の質に問題がある。
- 軽度の障害者向け施設は充足しているが、重度障害者向け施設が不足しており、需給バランスが悪い。
- 特に「日中サービス支援型グループホーム」は充足傾向にある。事業者側がニーズ調査を行わずに参入し、開設後に利用者を募る状況が散見される。
- 株式会社の参入が多く、開設しても利用者が集まらず、短期間で廃止される事業所が増えている。そのため、質の確保のために規制が必要とされている。
- 管理者は適切でも、現場のヘルパーの知識不足が問題となる場合がある。
- 民間事業者の進出により日中サービス支援型が増え続け、世話人の確保や専門性の維持が追いつかない。少人数でノウハウが継承されず、強度行動障害者一人に支援が偏ることで、本来在宅でも生活可能な人までグループホームに囲い込まれている。自治体としては「重度者を受け入れるグループホーム」の整備を優先してほしいという意見がある。
- 障がい者グループホームは地域移行を前提としたサービスであり、地域で必要なサービス量以上の供給は不要と考えられている。しかし、近年は空き家活用による安価な参入が相次ぎ、都心部や他地域から利用者を募る施設も見られる。その結果、地元居住者がいない施設が生まれ、居住地特例が使えない事例もあり、今後の拡大に懸念が示されている。

参照:厚生労働省 障害福祉分野における地域差・指定の在り方についてp42グラフ
総量規制導入による影響
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新規参入の難化
特に都市部や既に供給が多い地域では、指定申請をしても不承認となる可能性が高まる。計画枠を確保するために公募・選定方式が導入されることもあり、綿密な事業計画や地域貢献性が重視される可能性がある。 -
既存事業者の責任増加
事業所数が増加しづらくなるため事業所間で利用者獲得の競争は相対的に緩和されるが、質の維持・向上責任が増すことが予想されます。夜間支援加算・重度支援加算などの取得体制、虐待防止研修や地域連携の仕組みなど、地域連携推進会議など行政のモニタリングや改善要求が強まり、質を担保する体制づくりを行うことが求められる可能性がある。
今後の対応の方向性
共同生活援助を実施する場合には、総量規制が本格化する前に早めの検討と計画見直しが必要です。ただし、共同生活援助には以下の3種類があります。
2. 日中サービス支援型
3. 外部サービス利用型
これらすべてが総量規制の対象になるのか、それとも一部サービスのみが対象になるのかは、行政へ確認しながら進めることが求められます。 また、中長期的に事業拡大を考える場合には、M&Aや事業承継によって規模を拡大していくことが現実的な選択肢になると考えられます。
3. 今後の経営戦略
1. 総量規制を想定した経営判断
総量規制になると、新たな開設が難しくなります。既に障がい福祉サービスを実施している場合、その利用者がどのようなサービスを利用しているか、共同生活援助を利用しているか。利用を希望しているかの状況を把握するとともに、職員体制・経験・資格取得状況を可視化することが重要です。
今から開業し、共同生活援助を実施する場合には早めに検討を進めましょう。
周辺事業者数や地域の人口動態を加味し、5~10年先の需要予測を前提に事業計画を策定することがいいでしょう。そのうえで、どのサービスを事業展開していくかを見極めることが求められます。
中長期的に事業拡大をする場合、新たに開設する以外にM&Aも視野にいれることが重要です。
近年は、経営者の高齢化・後継者不足、基準厳格化や加算要件対応などを背景に、M&Aや事業承継が活発化しています。
売手側は、総量規制により新たに開設ができないため、希少価値がでると考えられます。
買手側は既存指定の承継により、ゼロから新規指定を取得するよりも迅速に参入できます。また、職員や利用者の引き継ぎも可能であるため、ゼロからスタートするより経営の安定化が早まりやすいという利点があります。
ただし、過去の記録や運営体制についてはしっかり確認しておく必要があります。基準違反の状態にある事業をそのまま引き継いでしまうと、修正に多大な時間と労力を要する可能性があります。そのため、経営状況だけでなく、サービス体制の確認を徹底することが非常に重要です。
2. 加算制度を活用した経営安定化と質の向上
例えば、
- 共同生活援助の夜間支援・重度加算、就労系の定着支援加算など、地域ニーズに直結する加算を優先する。
- 取得は「職員研修・体制強化」とセットで進め、利用者支援の質と経営の両立を実現する。
3. ICT × 人材の最適化
- ICT活用:記録システム、見守りセンサー、オンライン面談、生成AIなどを導入し、バックオフィス業務を省力化します。その上で、サービスの質を高め、利用者支援に注力できる体制を整えます。少人数でも効率的に運営できる仕組みを進めることが重要です。
- 採用・定着・教育:サービス拡大のためには、職員を採用し定着させる環境を整えることが欠かせません。また、教育体制を充実させ、社内から有資格者を育成する仕組みを持つことも必要です。定着には処遇改善加算を効果的に活用し、資格や役職に応じた配分を行います。さらに、教育研修や業務フォロー体制の整備を進めます。
4. まとめ
障がい福祉サービスは、地域差の顕在化や共同生活援助における総量規制の可能性を背景に、大きな転換点を迎えています。障がい福祉サービスの中でも特に共同生活援助への新規参入を希望する事業者や新たに開設することを計画している事業者にとっては、規制強化前に前倒しで対応することが有利と考えます。一方で、中長期的な事業拡大を考える場合には、M&Aや事業承継の活用が現実的な選択肢になると考えられます。地域のデータを的確に把握し、制度改正を先取りした戦略を描くことで、持続可能かつ発展的な経営を実現できるでしょう。
参照:厚生労働省 障害福祉分野における地域差・指定の在り方について

日本クレアス税理士法人 大阪本部