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就労選択支援は単独運営で黒字化できる?
想定から考える「併設運営」という現実解

2025.08.27
就労選択支援は単独運営で黒字化できる?想定から考える「併設運営」という現実解

はじめに

2025年10月から全国で新たに「障がい者本人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する新たなサービス」として“就労選択支援“が創設されます。
利用期間は原則1か月であり、短期間で作業場面等を活用した状況把握(アセスメント)、多職種連携によるケース会議を行い、本人の適性や希望に応じた進路選択をサポートするという内容です。
制度趣旨としては、障がい者本人にとって非常に意義深いものですが、事業者目線で見た場合、「単独事業として黒字化できるのか?」という現実的な疑問が浮かびます。今回は、事業者動向やモデル事業の結果を踏まえ、3つのテーマに沿って解説します。

テーマ1:就労選択支援の概要と単独運営の課題

【制度の概要】
  • 対象者:就労移行支援やA型・B型利用を検討している方、特に就労継続支援B型は、令和 7 年 10 月より、新たに利用する意向がある障がい者は原則利用が求められます。就労継続支援A型は令和9年4月から開始となります。
    しかし一部例外もあり、最も近い就労選択支援事業所であっても通所することが困難である等、 近隣に就労選択支援事業所がない場合などは、就労移行支援事業所等による就労アセスメントを経た就労継続支援B型の利用が認められます。
  • 期間:原則1か月(最長2か月)
  • 内容:アセスメント(作業体験・面談)、ケース会議、情報提供、事業者等との連絡調整
  • 報酬単価:1,210単位/日(約12,100円)+加算(送迎、処遇改善加算等)
  • アセスメントの中で、利用者に対する工賃が発生した場合は利用者への支払いも可能
  • 人員基準;管理者+就労選択支援員15:1以上で、短時間のサービスのため、個別支援計画の作成は不要で、サービス管理責任者の配置は求められていません。

新たに創設される就労選択支援の円滑な実施➀

参照:厚生労働省「就労選択支援について」

上記が就労選択支援の主な事業概要です。
事業者にとって、事業単体で運営は以下の理由により、非常に難しいのではないかと考えられます。

【単体での運営が難しい理由】
  1. 年間利用日数が少ない
    利用期間が短く、支給決定期間1か月が標準のため、報酬総額は限られます。
  2. 稼働率の維持が難しい
    毎月新規利用者を確保する必要があり、特に人口の少ない地域では高い稼働率を維持することが困難です。
  3. 固定費を維持するだけの報酬を得ることは難しい
    事業単体では、家賃や水道光熱費など全額負担する必要があり、支給決定期間が短いサービスのため、報酬の見通しが立てづらい。
  4. 人員配置要件を満たした職員の確保が難しい
    令和10年以降、就労選択支援員養成研修の修了が必要となります。(令和9年度末までは経過措置期間となり基礎的研修を修了していることなどの要件を認められています)

総括すると、就労選択支援は制度趣旨として重要な役割を担う一方で、短期利用型ゆえの報酬が限られること、利用者確保の難しさ、高い固定費負担、職員要件の厳しさ、そして行政対応の地域差(ローカルルール)が複合的に影響し、単独で安定した経営を行うのは困難な構造と考えられます。

テーマ2:併設運営モデルと職員配置例

併設運営モデルとは、既存の就労移行支援やA型・B型事業所に就労選択支援を「間借り」する形で運営し、事業所や職員、備品を共有して運営することです。
これにより、人件費と固定費を大幅に削減できるほか、利用者をスムーズに既存サービスへ移行できるというメリットが考えられます。

事業所併設の設備配置モデル例(既存サービスと併設)
  • 同一建物・同一フロア
    例:就労移行支援事業所の一角に就労選択支援の面談スペースを設ける
    メリット :備品・設備・事務スペースを共用できる
    デメリット:利用者動線やお互いの利用者が混ざらないように注意する
  • 同一建物・別室
    例:就労継続支援B型の空き部屋をアセスメント室として活用
    メリット :静かな環境を確保しやすく、個別面談も可能になる
    デメリット:面積基準(基本3㎡)や間仕切りが必要になる場合がある
  • 別棟・隣接型
    例:就労継続支援A型の隣の空き店舗を就労選択支援用に改装
    メリット:利用者の区分けが明確になる
    デメリット:固定費負担が増える
※行政により基準が異なるため、指定申請の際は行政へ確認が必要です。

事業所併設の職員配置モデル例(既存サービスと職員兼務)
  • 想定:定員10名、稼働率80%、就労移行支援やB型と同一拠点
職種 稼働割合 主な役割
就労選択支援員(必須) 40% アセスメント、ケース会議
就労支援員 30% 作業体験支援、記録作成
職業指導員 30% 作業指導、評価作成
生活支援員 10% 生活面必要時のみ聞き取り
管理者 10% 全体統括、行政対応

特に就労選択支援員は、専従雇用ではなく、兼務することや、既存職員の勤務時間を按分(役割に応じてわける)することで、人件費負担を最小限にすることが重要となります。
人員配置基準では、就労選択支援員15:1以上が要件ではありますが、1か月の支援イメージとして、初回面談 → 本人への情報提供→作業場面等を活用した状況把握(アセスメント)→多機関連携によるケース会議→アセスメントシート(案)の作成→事業者等との連絡調整の業務を考えると、多くの利用者を1人の就労選択支援員が対応することは難しいと予想されます。
そのため利用者の稼働率を上げて、利用者へのサービスを行うためには、職員が複数名は必要になるのではないかと思われます。

併設で事業運営を進めることで、事務所のスペースを有効活用できること、移動距離が少なくなり職員の兼務のハードルが下がることも考えると併設での事業運営されることが想定されます。

テーマ3:収支モデル

就労選択支援の基本報酬は、1,210単位/日です。注意する点は、特定事業所集中減算200単位/日があることです。「正当な理由なく、就労選択支援事業所において前6か月間に実施したアセスメントの結果を踏まえて利用者が利用した指定就労移行支援、指定就労継続支援A型又は指定 就労継続支援B型のそれぞれの提供総数のうち、同一の事業者によって提供されたものの占める割合が100分の80を超えている場合について、200単位/日減算する。」
とされており、同一事業者へ利用者が選択されることを防ぐためと考えられるため、他の事業所と連携をすることで特定事業所集中減算を回避する事業者がでてくると思われます。
またいくつかの加算として、送迎加算、食事提供加算、福祉専門職員等加算、処遇改善加算などの加算もあります。

下記前提条件を元に基本的なシミュレーションを実施してみると
  • 定員:10名(稼働率80% → 実利用8名)
  • 1名の月利用日数:アセスメント実施6日分、ケース会議4日、本人と共同したアセスメント結果作成など4日
  • 基本報酬:1,210単位/日 (1単位=10円換算 → 12,100円/日)
  • その他経費:家賃80,000円、水道光熱費30,000円、消耗品等20,000円
  • 人件費単価:月給換算266,800円(社会保険料込)
(定員10名、利用者8名)
項目 大まかな予想金額
基本報酬 677,600円(1,210単位×10円×(6日×8名+4日+4日))
人件費 533,600円(266,800円×2名)
その他経費 130,000円
利益 14,000円
上記は、基本報酬のみでの計算のため、実際には、処遇改善加算、送迎加算など算定されるケースがあると想定されるため加算分が上乗せされる可能性や既存事業に併設するなどうまく活用し運営することで、その他経費を下げられる可能性もあると考えられるが、常に利用者確保を継続的に実施する必要がある点から事業単体で安定した経営をすることは難しいと考えられます。

※本記事に記載している収支シミュレーションは、想定条件に基づく予測値です。実際の収支状況は地域や運営形態、利用者数などにより大きく変動する可能性があり、利益を担保するものではありません。

まとめ

就労選択支援は、利用者の希望、能力・適正にあった就労支援をするために非常に有効な制度ですが、単体事業として黒字化を継続することは現実的に厳しい面があると考えられます。
多くの事業者は、既存サービスとの併設運営でコストを抑え、利用者流入とサービスの質向上を両立させるために事業所開設を進められると予想されます。
まずは就労継続支援B型を実施している事業者は、「自社で就労選択支援の開設ができる要件があるのか?」を確認した上で、開設の検討を進め(下記、開設要件抜粋)、一方で開設をしない場合には、就労選択支援が近隣でどこに開設されるのかを把握し、連携を図ることを考えることが重要です。

実施主体

参照:厚生労働省「就労選択支援について」

今後、就労移行支援、就労継続支援事業を新たに開設しようとする場合やM&Aされる場合には、就労選択支援の状況も併せて確認を進めることが非常に重要になってきます。

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ライター紹介
石川敦士氏
石川 敦士氏
日本クレアス税理士法人 大阪本部日本クレアス税理士法人 大阪本部
HP:https://j-creas.com/