次期報酬改定を見据え、令和8年度から障がい福祉事業所はより厳しい局面へ
~報酬改定検討チーム資料から読み解く制度の現状とM&Aへの影響~
厚生労働省が令和7年12月16日に公表した「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム 資料1(令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題)」と令和8年1月22日に公表した「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム 資料1(令和8年度における臨時応急的な見直し)」では、令和6年度報酬改定後の状況分析に加え、今後想定される対応(案)についても示されています。
今回は、その中でも令和8年度に予定されている臨時応急的な対応に着目し、単なる報酬改定の影響にとどまらず、障がい福祉事業の経営判断や、M&Aの手法・選択に影響を及ぼす可能性がある点について整理します。
第1章 令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題と対応(案)
1.令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題
障がい福祉サービス等に係る予算額は、障害者自立支援法の施行時と比較して4倍以上に拡大しており、特に令和6年度報酬改定後は、総費用額が前年比12.1%増となり、その内訳として、一人当たり総費用額が6.0%増、利用者数が5.8%増と、費用・利用の双方が拡大しています。
一部のサービス(就労継続支援B型、共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)では、一定の収支差率を確保しつつ、事業所数および利用者数の増加が継続している状況が確認されていますが、必ずしも地域ニーズを反映したものではない可能性が指摘されています。
2.令和8年度対応の位置づけ
これらを踏まえ、令和8年度に臨時応急的な見直しの方向性が3つ示されています。
【1】就労移行支援体制加算については、制度趣旨と異なる算定が見られることを踏まえ、一事業所で算定できる就職者数に上限を設けるなどの適正化が行われます。(令和8年4月施行を想定)
【2】就労継続支援B型については、報酬改定により平均工賃月額の算定方式見直しの影響がより高い報酬区分の事業所が増加している状況を踏まえ、基本報酬区分の基準を見直すとともに、事業運営への影響に配慮した対応が行われます。(令和8年6月施行を想定)
主に変更となる報酬区分の基準の見直しのイメージ内容は下記となっています。
- ①令和6年度改定前後で区分が上がっていない事業所については、見直しの適用対象外
- ②見直しにより区分が下がる場合についても基本報酬の減少額が3%程度に収まるよう中間的な区分を新設
- ③令和6年度改定で単価を引き下げた区分七と八の間の基準額は据え置く
参考:厚生労働省 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム第52回(R8.1.26)
【3】収支差率が高く、かつ事業所数が急増しているサービス類型(就労継続支援B型、共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)、児童発達支援、放課後等デイサービス)については、制度の持続可能性を確保する観点から、令和8年度に限り、新規事業所に対して基本報酬を一定程度(1%強~3%弱程度)引き下げる措置が設けられることになります(既存事業所は対象外)。(令和8年6月施行を想定)
参考:厚生労働省 障害福祉サービス等報酬改定検討チーム第52回(R8.1.26)
第2章 今後の新規事業所開設に係る報酬の引き下げについて
令和8年度に制度の持続可能性を確保するための臨時的な見直し案では、令和8年6月以降に新規開設する就労継続支援B型、共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)、児童発達支援、放課後等デイサービスについて、令和8年度に限り、基本報酬を(1%強~3%弱程度)引き下げた報酬体系を適用する方向が示されています。
この見直しは、既存事業所の報酬水準は従前どおり維持しつつ、近年の総費用額急増の一因とされる新規参入分を調整対象とすることで、制度全体の収支バランスを確保することを目的とされています。
そのため、令和8年6月以降に新たに事業を開始する場合には、報酬が引き下げられる前提で収支計画を再検討する必要が生じる可能性が高いと考えられます。特に新規開設時は、利用者の確保や人材の定着に時間を要することも多く、当初想定していたとおりの収入を確保できず、黒字化までに時間がかかるケースは少なくありません。
私たち税理士法人が障がい福祉サービス事業の開業支援や新規立ち上げを支援する中で、立ち上がり期に想定外の事態が発生し、計画どおりの収益が得られないケースを数多く見てきました。こうした状況に加えて基本報酬が引き下げられると事業の収支構造はさらに厳しくなり、経営を圧迫する可能性が高まります。
また、新規開設の立ち上げにあたっては、金融機関からの融資を活用するケースが多い一方で、内装工事費や人件費、各種経費の高騰により、十分な運転資金を確保したうえで事業を開始すること自体が難しくなっているのが現状です。そのため、今後の制度動向を見据えながら、余裕を持った資金計画のもとで慎重に開設を進めることが重要と考えられます。
特に、開業当初から高い報酬水準を前提として事業計画を立てている場合、報酬の引下げは事業継続そのものに影響を及ぼすリスクがあります。今後は、「新規で事業を開始する場合、一定期間は厳しい収支となる可能性がある」ことを前提に、事業計画の策定、資金調達、利用者確保に向けた準備をより入念に行うことが、これまで以上に重要になってくると言えるでしょう。
第3章 臨時対応が恒久化した場合、M&Aの方法に影響が出る可能性はあるのか
令和8年度対応はあくまで臨時的措置とされていますが、今回示された考え方が恒久化した場合、障がい福祉分野におけるM&Aの在り方にも影響する可能性があります。
特に、新規で指定申請を行って参入する形となる“事業譲渡”の場合には、初年度から収益が圧迫されるリスクを伴うことが想定され、その結果、売り手側が想定していた譲渡対価について、買い手から調整を求められる可能性があります。
ただし、厚生労働省の資料では、「合併、分割、事業譲渡に伴う指定の場合は、その前後で事業所が実質的に継続して運営されると認める場合については、既存事業所と同様の扱いとする。」という制度が設けられる案が示されています。
既存事業所と同様に扱われるための詳しい情報や条件は現時点では示されていませんが、令和6年6月21日に公表された「事務連絡 令和6年6月21日障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について」という内容を参考にすることがいいと予想しています。
参考記事:障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化| 障害福祉M&A支援センター
一方、“株式譲渡”によるM&Aであれば、法人格は維持され、追加の指定申請を行う必要がないため、既存事業所としての実績や報酬体系を引き継げる可能性が高くなります。その結果、買い手にとっては収益の見通しが立てやすい構造となりそうです。
| 項目 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
| 法人格 | 新設・変更 | 継続 |
| 指定 | 原則新規 | 原則継続 |
| 新規参入扱い | されやすい | されにくい |
| 報酬・加算 | 引き下げリスクあり | 継続可能性高い |
このように、報酬制度の動向次第では、M&Aのスキーム選択そのものが収益性に直結する局面になることが想定されます。
もっとも、株式譲渡が常に有利というわけではありません。株式譲渡の場合、以下のようなリスクも含めて引き継ぐことになります。
- 過去の運営に起因するリスク
- 労務管理や人事に関するリスク
- 行政指導・返還等に関するリスク
そのため、株式譲渡を選択する場合には、財務面だけでなく、運営実態や労務管理、行政対応状況を含めた十分なデューデリジェンスを行うことが、従来以上に重要になると考えられます。
まとめ
令和8年度の報酬対応は臨時措置とされていますが、その考え方が恒久化すれば、障がい福祉事業の経営環境、そしてM&Aの手法そのものが大きく変わる可能性があります。
制度の不確実性が高い今だからこそ、将来の報酬改定を見据えた経営判断と、M&A・事業承継の検討が、これまで以上に重要な局面に入っていると言えるでしょう。
参考資料
厚生労働省:「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題)」
「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム(令和8年度における臨時応急的な見直し)」

日本クレアス税理士法人 大阪本部