共同生活援助の事業価値と承継戦略への影響
~管理体制強化と制度見直しが変えるこれからの共同生活援助~
はじめに 共同生活援助は今、転換点を迎えている
共同生活援助(障がい者グループホーム)は、近年、障がい福祉サービスの中でも事業所数の増加が続いているサービスの一つです。
利用者ニーズが拡大していることに加え、比較的参入しやすい事業形態であったことから、既存の介護・福祉事業者のみならず、新たに障がい福祉領域へ参入する法人も増加してきました。
一方で、事業所数増に応じ、行政が重視する視点も変化しています。現在は「支援の質」「運営体制」「継続的なサービス提供体制」の確保へと重点が移りつつあります。
また、地域によっては共同生活援助の指定や供給量の考え方を見直す動きも見られており、今後は単純な拠点拡大だけではない経営判断が求められる可能性があります。
こうした変化は、運営方法だけではなく、事業価値や承継戦略にも影響を与える可能性があります。
今回は、共同生活援助に焦点を当て、今後の制度変化が経営や事業価値にどのような影響を与えるのか整理します。
第1章 今後の運営において変わること―管理者要件の導入と研修受講が必要へ
共同生活援助を取り巻く制度環境は大きく変化しています。
厚生労働省では、「共同生活援助の質の確保に向けた取組」として、管理体制や支援品質の向上に関する方向性を示しています。令和8年6月5日の社会保障審議会障害者部会でも、共同生活援助に関する見直し案が示され、管理者要件や研修体制の整備が議論されています。
方向性として示されている内容には、次のようなものがあります。
・管理者要件の導入(障がい福祉分野での一定の実務経験および管理者研修の受講)
・直接処遇職員に対する障がい福祉の基礎的研修受講体制の整備
参考:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課 障害福祉課 社会保障審議会障害者部会 第156回(R8.6.5) 資料3
重要なのは、これらが単純な人員増加を求めているわけではなく、資格取得や研修受講が求められている点です。
これらは新規事業所だけでなく、既存事業所にも影響が及ぶ内容となっています。
管理者要件については、令和9年度より前に開設した共同生活援助の管理者(施行時点において現に勤務している者に限る。)については、3年以上の実務経験を要しないとされています。一方、令和9年度以降に新規開設する共同生活援助の管理者については、実務経験の経過措置がなく、開設時点で3年以上の実務経験が必要となる見込みです。
管理者要件の共同生活援助管理者研修(仮称)も設けられる予定で、経過措置期間内に研修修了することも求められる方向です。
また、世話人、生活支援員、夜間支援従事者など、障がい者の支援に直接携わる職員(直接処遇職員)に対し、障がい福祉に係る基礎的な研修を受講させるために必要な措置を講じることが、運営基準により義務付けられる想定もされています。
これらの状況は、今後共同生活援助を運営する上で、かなり大きな影響を及ぼす可能性があります。
第2章 共同生活援助に与える影響(運営負担)とは
第1章でお伝えしたような制度見直しと聞くと、人件費が大きく増加する、あるいは運営負担が重くなるイメージを持つ方もいるかもしれません。
実際にどのような影響が生じるのか、具体的なイメージを確認してみます。
例えば、年間売上3,500万円、定員7~10名程度の共同生活援助事業所を想定します。
| 共同生活援助(介護サービス包括型) | |
| 年間売上 | 3,500万円 |
| 人件費率 | 62% |
| 人件費 | 約2,170万円 |
| 営業利益 | 約241万円(利益率約6.9%) |
現状は、
- 管理者の兼務
- 代表者による管理支援
- 限られた人員でのシフト運営
- 正社員3人、非常勤スタッフ6人
ここで、制度対応として、
- 研修時間の確保
- シフト再編
- 採用活動
- 管理業務の整理
処遇調整 +1~10万円(研修受講や勤務調整に伴う対応)
研修・体制整備 +1~10万円(受講時間中の人員調整等)
管理工数増 +1~5万円(管理時間増加やツール導入等)
程度の追加負担が発生する可能性があります。
年間追加コストは約3~25万円程度のイメージです。
一見すると大きな負担増には見えませんが、物価上昇や採用費上昇も踏まえると、事業所にとっては研修対応や管理負担など、見えづらいコストが積み上がる可能性があります。
一方で、すべての事業所で追加コストが発生するわけではなく、既存の管理体制やシフト運用の工夫により吸収できるケースも想定されます。
ただし、1名退職した場合には現場負担や採用活動が発生し、採用コストの発生やサービス提供体制にも影響する可能性があります。今後は、研修や資格要件への対応を進めながら、管理体制を維持し継続的に運営できるかという視点がより重要になると考えられます。
第3章 厳しくなる環境は事業価値を押し下げるのか
制度厳格化や総量規制の議論が進む中、共同生活援助の事業価値が今後どのように変化していくのか注目されています。
共同生活援助については、令和9年度以降、地域によっては総量規制の考え方や指定方針の見直しが進む可能性もあり、市場への新規参入や拡大がこれまでと同じように進まない可能性があります。そのため、総量規制対象エリアや、すでに運営基盤を持つ事業者については、相対的に事業価値が高まる可能性もあると考えられます。
一方で、すべての事業所の価値が高まるわけではないと想定されます。
今後、評価されやすい要素としては、
- 管理者体制の安定性
- 教育体制の整備状況
- 離職率の安定性
- 採用実績
- 指導対応履歴の内容
- 兼務依存の低さ
などが挙げられます。
これまでは「利用者数」「稼働率」「売上」が評価の中心でした。
今後は上記に加え、「第三者が引き継いでも運営できる状態か」という視点が加わる可能性があります。同じ売上規模であっても、管理体制が整っている事業者とそうでない事業者では、将来的な評価が変わる可能性があります。
そのため、今後は利用者獲得だけではなく、制度対応状況や支援の質を可視化する観点から、ガイドラインや運営指導マニュアルを参考に、事業所の運営体制を改めて見直していくことが重要になるでしょう。
まとめ
共同生活援助は、今後も地域生活を支える重要な社会基盤です。
一方で、制度環境や人材環境は変化しています。
管理体制を整え、人材を確保し、支援の質を確保しながら継続的に運営できるかどうかです。制度変更は短期的には負担増にもなりますが、これらの変化に対応することは、事業価値を高める機会になるかもしれません。
参考:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課 障害福祉課 社会保障審議会障害者部会 第156回(R8.6.5) 資料3

日本クレアス税理士法人 大阪本部