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障がい福祉サービスの指導監査が強化へ
事業者に求められる今後の対応と、自主点検の確認ポイント

2026.07.30
障がい福祉サービスの指導監査が強化へ事業者に求められる今後の対応と、自主点検の確認ポイント

はじめに

障がい福祉サービス事業者を取り巻く経営環境は、報酬改定への対応だけでなく、適正な運営体制の整備という面でも変化しています。
厚生労働省は令和8年6月、障害福祉分野における運営指導・監査の強化に関する資料を公表しました。あわせて、「集団指導・運営指導マニュアル」、「監査マニュアル」、サービスごとの「確認項目及び確認文書」などが示されています。
背景には、障がい福祉サービス事業所の増加と、一部の事業者における不適切な運営や報酬請求があります。また、これまでの運営指導は自治体ごとに実施状況や確認方法に差がありました。

今回のマニュアル整備により、今後は一定の基準に沿った運営指導や監査が進められることが想定されます。事業者としても、運営指導の直前に書類を整えるのではなく、日頃から人員配置、支援記録、加算算定、委員会運営などを確認し、適正な運営を継続できる体制を整えることが重要です。

こうした管理体制は、行政対応だけでなく、事業承継やM&Aにおける事業価値の評価にも関係します。今回は、マニュアルの概要と、事業者が今後確認すべきポイント、M&Aでの活用方法について解説します。

第1章 運営指導・監査はどのように変わるのか

障がい福祉分野では、これまで介護保険分野のような全国共通の詳細な運営指導・監査マニュアルや、行政処分を判断するための統一的な考え方が十分に整備されていませんでした。そのため、運営指導で確認される内容や指導方法、監査後の処分判断について、自治体ごとの差が生じやすい状況にありました。

今回、厚生労働省は主に次の資料を整備しています。

  • 集団指導・運営指導の進め方を示したマニュアル
  • 運営指導で確認する事項を整理した「確認項目及び確認文書」
  • 処分の程度を検討する際の考え方を示した監査マニュアル

指導・監査の全体像は、従来と同様に、集団指導、運営指導、監査・行政処分の3つの枠組みに整理されています。

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参照:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課監査指導室

(別添2)指定障害福祉サービス事業者等に対する 集団指導・運営指導マニュアル

その上で、今回の整備により、各段階で何を確認し、どのように判断するかが明確になりました。

特に「確認項目及び確認文書」では、運営指導時に確認する内容がサービスごとに整理されています。事業者側から見れば、行政がどのような視点で運営状況を確認するのかを、事前に把握しやすくなったといえます。

また、監査マニュアルでは、自治体が処分等の程度を検討する際に参照できる考え方の例として、A級からD級までの分類が示されています。例えば、人員基準違反や運営基準違反は原則として勧告、不正請求や人格尊重義務違反は指定の全部効力停止を基本とする例が示されています。なお、実際の対応は、違反内容、継続期間、故意性、利用者への影響、改善状況などを踏まえて個別に判断されます。今回の整理により、今後は自治体ごとの判断のばらつきを抑え、全国的な整合性を図ることが期待されます。

さらに、複数の都道府県で事業を展開する国所管法人や、100事業所以上を運営する大規模法人については、法人本部や各事業所に対する検査を強化する方向性も示されています。

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参照:厚生労働省 社会保障審議会障害者部会 第156回(R8.6.5) 資料3 障害福祉サービスの質の確保について

今回のマニュアルや「確認項目及び確認文書」は、行政が運営指導で確認する最低限のチェックポイントを整理したものであり、事業者が日常の運営状況を自主点検する際の参考資料としても活用できます。

第2章 事業者が今から確認すべき経営管理体制

運営指導への対応では、事業所内の書類だけでなく、人員配置や加算算定、研修、委員会運営などについて、法人本部と事業所が連携して管理できているかを確認することも重要です。処遇改善加算を算定している場合には、計画書や実績報告書と、実際の賃金改善額や給与資料との整合性も確認しておく必要があります。

こうした対応を継続的に行うためには、本部による運営管理体制の整備が欠かせません。特に複数の事業所を運営する法人では、各事業所の管理者やサービス管理責任者に運営を任せるだけでは、法人全体としての運営状況を十分に把握することが難しくなります。そのため、本部が各事業所の運営状況を定期的に確認し、必要に応じて改善を促す仕組みを構築することが重要です。

自主点検の際には、厚生労働省が示したマニュアルや「確認項目及び確認文書」を活用できます。また、マニュアルには、確認項目を補完するヒアリング例も掲載されています。書類が整っているかだけでなく、実際の運営状況や日頃の対応を具体的に説明できるかという視点で、自主点検を行うことも重要です。

以下は確認項目を補完する質問の例です。参考にしてください。
【参考】
◎確認項目を補完するヒアリング例
□運営状況に関する質問例
・職員の中で、法人の他の部署と兼務している方はいますか。
・サービスの提供に携わる職員のうち、派遣職員はいらっしゃいますか。(いる場合)その方の1か月の合計勤務時間について、把握していますか。
⇒ 把握の義務はないが、1日8時間を超える勤務をしているなど、サービスの質の低下につながる危険のある労働をしていないか、確認することを推奨
・緊急事態が発生した場合、主治の医師とどのように連絡を取っていますか。
・非常災害に備え、どのような訓練を行っていますか。
・利用者/入所者の秘密保持について、従業員に対してどのような形で誓約をさせていますか。
・苦情をどのように受付けていますか。
・苦情があった場合、どのように対応されていますか。
・最近、ヒヤリハットしたことはありますか?(ある場合は)どのように対応されましたか。

□ 記録や文書から確認
・運営規程や重要事項説明書に記載されていることに齟齬はないか/最新か。
・災害対策訓練が適切に行われているか(火災年2回以上、地震、風水害など)。
・いわゆる事故対応マニュアル(名称は問わず)やそれに準じるものが用意されているか。
・保険者への事故報告は適切に行われているか。
・身体拘束廃止のための体制整備が適切に行われているか。 等

参照:厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課監査指導室
(別添2)指定障害福祉サービス事業者等に対する 集団指導・運営指導マニュアル

事業者としては、本部による内部監査、事業所ごとの自主点検、行政通知を共有する仕組みなどを整え、特定の管理者や職員に依存しない管理体制へ移行することが求められます。

第3章 運営指導・監査マニュアルはM&Aにも活用できる

障がい福祉事業のM&Aでは、売上高、営業利益、利用者数だけで事業価値を十分に判断することはできません。買い手側は、過去の報酬請求に返還リスクがないか、人員配置基準を継続して満たしているか、運営指導や監査でどのような指摘を受けているかを確認する必要があります。

そのため、障がい福祉事業のM&Aでは、財務・税務デューデリジェンスだけでなく、指定基準や報酬請求の適正性を確認する事業デューデリジェンスを行うことも重要です。
今回公表されたマニュアルや「確認項目及び確認文書」は、行政による運営指導のための資料ですが、M&Aにおける事業デューデリジェンスの確認項目を整理する際の参考資料としても活用できます。

例えば、運営規程、勤務形態一覧表、雇用契約書、資格証、個別支援計画、サービス提供記録、加算届、委員会議事録、研修記録、過去の運営指導結果などを確認することで、運営上のリスクを把握しやすくなります。

売り手側にとっても、マニュアルを活用した事前点検は有効です。M&Aを検討する前に、人員配置、記録整備、加算算定、委員会運営などを確認し、不備があれば改善しておくことで、買い手からの指摘や譲渡価格の調整リスクを抑えられます。過去に指摘を受けていたとしても、改善対応が完了し、再発防止策まで整備されていれば、管理体制が機能していることを示す材料になります。

ただし、マニュアルだけで対象事業所のすべてのリスクを判断できるわけではありません。指定権者ごとの取扱い、過去の報酬請求、雇用実態、行政への届出状況なども含め、対象事業所の実態に応じた確認が必要です。取引の手法や契約内容によっては、M&A後の事業運営や譲渡条件に影響を及ぼす可能性があります。

まとめ

障がい福祉分野における運営指導・監査の強化により、事業者にはこれまで以上に日常的な法令遵守と記録管理が求められます。今回公表されたマニュアルや確認項目は、行政対応への備えだけでなく、日常的な自主点検やM&A時の事業デューデリジェンスにも活用できる実務的な資料です。

今後の障がい福祉事業では、「現在利益が出ているか」だけでなく、「適正な運営によって、その利益を継続できるか」が、これまで以上に重視されると考えられます。

参考:厚生労働省「障害福祉分野における指導監督
ライター紹介
石川敦士氏
石川 敦士氏
日本クレアス税理士法人 大阪本部日本クレアス税理士法人 大阪本部
HP:https://j-creas.com/