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障がい福祉の生産性向上は「報酬上の評価」の検討段階へ
―令和9年度報酬改定に向けた最新動向―

2026.08.31
障がい福祉の生産性向上は「報酬上の評価」の検討段階へ―令和9年度報酬改定に向けた最新動向―

はじめに

障がい福祉分野における生産性向上の議論が、新たな段階に入りました。厚生労働省は令和8年3月、「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方―当事者視点に立ったケアの充実のために」を公表しました。さらに同年7月には、「障害福祉分野における人材確保・生産性向上に関する検討会」の第1回が開催され、障がい福祉分野に特化した新たなガイドラインの策定と、生産性向上の取組・成果を評価する仕組みの検討が始まっています。

これまで障がい福祉事業者にとって、生産性向上は主にICT導入や業務改善、処遇改善加算の職場環境等要件への対応として捉えられてきました。今回注目したいのは、生産性向上が事業者ごとの自主的な改善にとどまらず、令和9年度障がい福祉サービス等報酬改定を見据えた政策課題として検討されている点です。

今回は、現在の検討状況と今後事業者が確認したいポイントを整理します。

第1章 令和8年3月に示された「基本的な考え方」

厚生労働省が公表した基本的な考え方では、障がい福祉における生産性向上を、「支援を減らすこと」や「人を減らすこと」ではなく、支援者一人ひとりの力を引き出し、チームでその力を利用者に届けることで新たな価値を生み出すこととしています。

ここで重要なのは、生産性向上の最終的な目的が、コスト削減ではなく「当事者視点に立ったケアの充実」とされたことです。事務作業を短縮できたとしても、それだけで取組が完了するわけではありません。生み出した時間や職員の余力を、利用者との関わり、支援内容の検討、職員間の情報共有、人材育成などに振り向け、支援の質の向上につなげることが求められます。

また、基本的な考え方では、「なぜ生産性向上が必要なのか(Why)」「生産性向上とは何か(What)」「どのように進めるか(How)」の三つの視点から内容が整理されています。今後事業者が取組を進める際には、システムや機器の導入から考えるのではなく、まず事業所の課題と改善の目的を明確にすることが出発点となります。

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出典:厚生労働省「障害福祉分野における人材確保・生産性向上に関する検討会(第1回)」資料2(令和8年7月28日)
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第2章 新たな生産性向上ガイドラインのイメージ

令和8年7月に始まった検討会では、新たに「障害福祉分野における生産性向上ガイドライン」を策定する方針が示されました。想定されているのは、事業所の種別を問わない基本的な考え方や標準的な取組手順を整理する「共通編」と、サービスの特性に応じた具体的な取組を示す「類型別」の構成です。

類型別については、「訪問系・相談支援系」「施設入所系・居住支援系」「通所系」「児童系」の四つに分けることが想定されています。同じ障がい福祉であっても、訪問系と通所系では、記録、移動、情報共有、人員配置などの課題が異なります。介護分野の取組をそのまま当てはめるのではなく、障がい福祉のサービス特性や当事者の視点を踏まえた指針を作ることが検討されています。

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出典:厚生労働省「障害福祉分野における人材確保・生産性向上に関する検討会(第1回)」資料2(令和8年7月28日)

但し、今回示されている4つの類型は、障がい福祉サービス全体の方向性を整理するうえでは分かりやすいものの、同じ類型に含まれるサービスでも、支援内容や人員配置、業務上の課題は大きく異なります。例えば、訪問系サービスと相談支援では、利用者との関わり方や記録、移動、関係機関との調整業務などに違いがあります。
そのため、今後策定されるガイドラインでは、4類型に共通する考え方だけでなく、可能な限りサービスごとの留意点を示すことが望まれます。また、事業者が自らの事業所に置き換えて検討できるよう、ICT導入、記録業務、送迎、夜間支援、情報共有などに関する具体的な改善事例と効果がより数多く掲載されることも期待されます。
厚生労働省が示した予定では、令和8年10月頃にガイドライン共通編の暫定版と、評価の仕組みに関する実証研究の進捗が報告され、その後事例含めて周知される予定です。

第3章 生産性向上の取組は報酬上の評価につながるのか―事業者が今後確認したい二つのポイント―

令和9年度障害福祉サービス等報酬改定に向け、報酬改定検討チームでは、令和8年6月から8月にかけて関係団体へのヒアリングが複数回実施されています。各団体からは、サービスの実態を踏まえ、基本報酬、人材確保、処遇改善、人員配置、物価高騰への対応など、幅広い意見が提出されています。

こうした議論の中で注目されるのが、「生産性向上の取組や成果等を評価する仕組みの検討」が今後の進め方に盛り込まれていることです。現時点では具体的な内容は決定していませんが、生産性向上の取組やその成果を、将来的に報酬上どのように評価するかについて検討が進められる可能性があります。
こうした状況を踏まえ、事業者が現在確認しておきたいポイントは、次の二つです。

一つ目は、「何を実施したか」だけでなく、「実施後にどのような変化や成果が生じたか」を把握できるようにしておくことです。
今後の評価の仕組みでは、システムや機器を導入した事実だけではなく、記録時間や残業時間の減少、職員の負担軽減、利用者と関わる時間の確保、職員間の情報共有、支援の質の変化などが確認される可能性があります。
そのため、導入前の課題、改善の目的、実施内容、導入前後の変化を記録し、取組の成果を説明できる状態にしておくことが望まれます。システムや機器を導入する段階で、どのような指標を用いて効果を検証するのかを、あらかじめ検討しておくことも重要です。

二つ目は、自事業所のサービス類型ごとに業務上の課題がどこにあるか把握しておく準備が重要です。
第2章で確認したとおり、同じ障がい福祉分野でも、サービスによって業務内容や改善すべき課題は異なります。今後、自事業所のサービス類型に対応するガイドラインが公表された際には、その内容を確認するとともに、現在使用している設備やシステム、更新時期、現場で生じている課題などを整理する必要があります。

設備投資を検討する場合には、報酬上の評価や補助金の有無だけで判断するのではなく、導入費用に加えて、保守料や月額利用料などの継続費用も確認することが大切です。また、残業代や記録時間の削減効果、職員配置への影響などを含め、投資効果を総合的に検討する必要があります。
補助金や将来の加算収入を前提とした資金計画は避け、補助終了後の資金繰りや、事業所別・サービス別の収支も踏まえて判断することが重要だと考えます。

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出典:厚生労働省「障害福祉分野における人材確保・生産性向上に関する検討会(第1回)」資料2(令和8年7月28日)

まとめ

今回の動きは、生産性向上の必要性を改めて示すだけでなく、障がい福祉分野に特化したガイドラインを整備し、取組や成果をどのように評価するかについて、具体的な検討が始まった点に特徴があります。
現時点では、新たな加算や算定要件は決定していません。今後公表されるガイドラインや実証研究の結果、令和9年度報酬改定検討チームの議論を確認しながら、自事業所に必要な対応を検討することが重要です。

障がい福祉事業の経営やM&Aにおいて、制度変更への対応力は、事業の継続性や運営体制の安定性を確認するうえで重要な要素となります。生産性向上についても、システムや機器の導入実績だけで判断するのではなく、その取組が支援の質の向上、人材の定着、職員の負担軽減などにつながり、安定した事業運営に寄与しているかという視点で確認することが必要です。
制度の詳細が確定していない段階だからこそ、過度に先回りするのではなく、公表資料に基づいて最新の検討状況を確認しながら、自事業所の課題に応じて段階的に対応していくことが求められます。

【参考資料】
ライター紹介
石川敦士氏
石川 敦士氏
日本クレアス税理士法人 大阪本部日本クレアス税理士法人 大阪本部
HP:https://j-creas.com/