コラム

Column

令和9年度障害福祉報酬改定が本格化
~予算概算要求・共通システム化から考える今後のM&A~

2026.09.30
障がい福祉の生産性向上は「報酬上の評価」の検討段階へ―令和9年度報酬改定に向けた最新動向―

令和9年度の障がい福祉サービス等報酬改定に向けた動きが、いよいよ具体的になってきました。
令和8年4月に報酬改定に向けた検討が始まり、6月から8月にかけて関係団体へのヒアリングが実施され、8月27日には「令和9年度障害福祉報酬改定に向けた主な論点(案)」や9月17日に開催された社会保障審議会障害者部会では、「令和9年度障害福祉報酬改定の議論の状況」が示されました。国がどこに課題を感じ、どの方向に制度を動かそうとしているのかが少しずつ見えてくる段階に入ったといえます。

さらに令和9年度には、報酬改定だけではありません。

指定申請や加算届出などを扱う「事業者・自治体間の障害福祉関係手続に関するシステム」の共通化も予定されています。
今回は、現在公表されている資料から、令和9年度改定に向けてどこまで議論が進んでいるのか、そして障がい福祉事業のM&Aを検討する場合に今から何を確認しておきたいのかを整理します。

1.令和9年度報酬改定は「これから」ではなく、すでに議論が本格化している

厚生労働省が示しているスケジュールでは、関係団体ヒアリングを行い、その内容を踏まえて論点を整理。その後、秋以降に各サービスやサービス横断的な検討を行い、12月頃に報酬・基準に関する基本的な考え方を整理し、年明けに具体的な報酬改定案を取りまとめる予定となっています。

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参考:厚生労働省 社会保障審議会障害者部会 第159回(R8.9.17)資料1

令和9年度改定の背景として特に重要なのが、障がい福祉サービスにかかる費用の増加です。
現在、令和9年度改定では「報酬を上げるのか、下げるのか」という議論だけではなく、
人材をどのように確保するのか、サービスの質をどのように評価するのか、増加する給付費をどう持続可能なものにするのか、地域ごとのサービス供給の差にどう対応するのか、
といった複数の課題も同時に検討が進められています。

また、令和8年度にはすでに一部の見直しが行われ、事業所数が増加している就労継続支援B型、共同生活援助の一部、児童発達支援、放課後等デイサービスでは、令和8年6月以降の新規指定事業所を対象として、令和9年度報酬改定までの間、応急的な報酬単価が設定されました。令和9年度改定は、まったくゼロから議論されるのではなく、こうした令和8年度までの制度変更や実績を踏まえて検討されている点にも注意が必要です。

2.報酬だけでなく、行政手続も変わる―令和9年度に進む「共通システム化」

令和9年度に向けて進んでいるのは、報酬改定だけではなく、事業者と自治体の間で行われる障がい福祉関係手続の共通システム化もされるようです。現在、障がい福祉サービス事業者は、新規指定、指定更新、変更届、加算届出など、指定権者である自治体へさまざまな申請・届出を行っています。
しかし、提出方法や運用は自治体によって異なる場合があります。複数の自治体で事業所を展開する法人では、それぞれの自治体の手続方法を確認しながら対応する必要があり、事業者側だけでなく自治体側にも大きな事務負担があります。そこで国が進めているのが、「事業者・自治体間の障害福祉関係手続に関するシステム」の共通化です。

新しいシステムには、

  • 電子申請・届出機能
  • 事業所台帳管理機能
  • 業務管理体制データ管理機能
の3つの機能を持たせることが予定されています。厚生労働省は、令和9年度中の運用開始を想定して整備を進めています。

電子申請だけではなく、事業所台帳や業務管理体制まで一つの仕組みの中で管理していく点が重要です。また、申請項目の共通化や添付書類の省略、エラーチェックによる入力ミスの軽減なども想定されています。事業者にとっては、行政手続の負担軽減につながることが期待されます。

一方で、新しいシステムへのデータ移行は、報酬の審査・支払への影響を抑えるため、指定権者単位で段階的に進める方針も示されています。そのため、「令和9年度になれば全国の事業所が一斉に同じ方法へ切り替わる」というものではありません。自社の指定権者がいつ移行するのかを確認していく必要があります。
令和9年度は、報酬のルールだけではなく、指定や加算を管理する方法自体も変わっていく年度になる可能性があります。

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こども家庭庁 概算要求(令和8年8月31日) 資料3令和9年度予算概算要求の概要(事業別の資料集)

3.M&Aを考えるなら「改定後にどうなるか」を今から確認する

報酬改定、制度変更は、障がい福祉事業のM&Aにも大きく関係します。
一般的なM&Aでは、売上、利益、EBITDA、借入金、純資産などの財務情報をベースに確認します。
しかし報酬改定により、売上・経費変化の可能性があります。そのため、現在の利益がどの基本報酬や加算によって構成されているのか、人員配置や算定要件を適切に満たしているのか、制度改定によって収益構造が変わる可能性はないのか、といった確認が必要になります。

令和9年度改定に向けては、サービスの質や制度の持続可能性、地域差、人材確保などが重要な論点となっています。障がい福祉事業のM&Aを検討する場合には、「過去3年間でいくら利益が出たのか」だけを見るのではなく、「令和9年度以降も、この事業所が現在と同じように運営できるのか」を見ることが重要になります。

加えて、指定通知書、変更届、加算届、人員配置、運営指導の結果、過誤調整・返還の有無など、行政・制度面の確認も欠かせません。共通システムへの移行時期によっては、従来の紙やメールによる申請と新システム上の申請が混在することも考えられるため、現在の指定・加算関係資料を整理しておく必要があります。そのため、M&Aの買手側として「現在の数字」だけでなく、「制度変更後の数字」を考える視点が必要になってくるでしょう。

まとめ|障がい福祉のM&Aでは「業界を理解しているか」がより重要に

令和9年度の障がい福祉サービス報酬改定は、これから本格化していき、より具体的な情報がでてきます。就労系サービスやグループホーム等の質の確保、運営指導・監査、人材確保・生産性向上、防災・減災対策など、事業運営そのものを見直す動きが進んでいます。

M&Aを検討している事業者にとって重要なのは、制度が確定してから動き始めることではありません。今の段階から、現在の収益がどの報酬・加算によって成り立っているのか、人員配置や指定、加算届出に問題がないかを整理しておくことが重要です。
そして、M&Aを支援する会社や専門家の選択も重要になります。財務諸表や企業価値評価だけではなく、障がい福祉サービスの報酬体系、指定制度、加算、人員基準、運営指導、報酬改定の動向まで理解したうえで支援できるかによって、確認できるリスクや将来の事業計画の精度は変わります。

令和9年度改定に向けた議論が具体化してきた今だからこそ、売手・買手の双方が準備を始めるタイミングといえるでしょう。

※本記事は2026年9月18日時点で公表されている厚生労働省・こども家庭庁等の資料をもとに作成しています。令和9年度障害福祉サービス等報酬改定の具体的な基本報酬、加算・減算、改定率等は今後の議論により決定されます。

【参考資料】
ライター紹介
石川敦士氏
石川 敦士氏
日本クレアス税理士法人 大阪本部日本クレアス税理士法人 大阪本部
HP:https://j-creas.com/